
不動産のエクセル管理が崩れるのは、台帳の中ではなく台帳どうしのつなぎ目です。物件・家賃・顧客・収支の台帳をIDでつなぐ設計と、脱エクセルの判断基準を示します。
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結論:不動産のエクセル管理は「4つの台帳+共通ID」で設計する
💡 ここがポイント
物件・家賃・顧客・収支を別々のエクセルで管理していること自体は間違いではありません。崩れるのは、台帳どうしを部屋名や顧客名の手入力でつないでいるところです。
不動産の管理会社や仲介会社でエクセルが増えていくのは、業務ごとに台帳が必要だからです。
物件の情報、入居者との契約と毎月の家賃、オーナーや入居者の連絡先、物件ごとの収支は、それぞれ1行が表すものが違います。
だから台帳は分けたままでかまいません。
決めておくべきなのは、台帳どうしが何でつながるかです。
| 台帳 | 1行の単位 | 最低限の列 | 詳しい作り方 |
|---|---|---|---|
| 物件・部屋台帳 | 1部屋 | 物件ID・部屋ID・所在地・間取り・募集賃料・オーナーの顧客ID | 物件管理の記事 |
| 契約・家賃台帳 | 1契約 | 契約ID・部屋ID・入居者の顧客ID・賃料・契約開始日・終了日・入金記録 | 物件管理/空室対策の記事 |
| 顧客台帳 | 1人・1社 | 顧客ID・区分(入居者・オーナー・買主)・氏名・連絡先 | 入居審査の記事 |
| 収支台帳 | 1物件×1か月 | 物件ID・年月・賃料収入・管理手数料・修繕費・送金額 | 収支シミュレーションの記事 |
物件管理の記事では、物件台帳を物件・部屋・入居者の3階層で整理し直す考え方を紹介しています。
この記事の物件・部屋台帳はそのうち物件と部屋の階層に当たり、入居者の階層は顧客台帳(氏名・連絡先)と契約・家賃台帳(入居期間・賃料・入金)に分けて持つ形です。
この記事では、4つの台帳の全体像と、つなぎ方、法令が求める帳簿との関係、エクセルをやめる判断基準までを扱います。
各台帳の細かい作り方は、末尾の関連記事にまとめた個別記事で解説しています。
崩れるのは台帳の中ではなく「つなぎ目」
⚠ 落とし穴
部屋名や顧客名で台帳をつなぐと、表記ゆれで照合が外れ、同じ情報の転記が台帳の数だけ発生します。IDを先に決めて、名前は1か所にしか書かない形にします。
よくあるのが、物件台帳では「101」、家賃台帳では「101号室」、オーナー報告では「101」と、同じ部屋の書き方が台帳ごとに違う状態です。
人の目では同じ部屋でも、VLOOKUPやXLOOKUPは別物として扱います。
照合が外れても空欄やエラーが出るだけなので、入金の消込漏れや集計の抜けに気づくのは、オーナーから問い合わせが来たときになりがちです。
照合の数式は、表記ゆれのほかにも列の挿入や近似一致の指定で、エラーを出さずに崩れます。
そのきっかけと見分け方は、VLOOKUP依存の記事で解説しています。

もう1つの問題が転記の回数です。
以下は説明用の設例です。
1件の入居で、顧客台帳に氏名を書き、契約・家賃台帳に契約内容を書き、物件台帳の部屋を「入居中」に直し、収支台帳とオーナー報告に賃料を写す、と数えると5か所になります。
IDでつながっていれば、氏名は顧客台帳に1回、賃料は契約・家賃台帳に1回書くだけで、ほかの台帳は参照で埋まります。

時間よりも大きいのは、転記のたびにミスが入り込む機会が増えることです。
4つの台帳それぞれで押さえる設計の要点
📌 設計の原則
台帳ごとに「1行が何を表すか」を固定し、上書きではなく行の追加で履歴を残します。この2点を外すと、どの台帳も後から数字を再現できなくなります。
物件・部屋台帳は1部屋1行で、部屋の属性だけを持たせます。
入居者名や賃料の入金をここに書き込むと、入れ替わりのたびに上書きされ、過去の状態が消えます。
消込や契約更新を手作業で回し続けたときに何が起きるかは、物件管理の記事で解説しています。
契約・家賃台帳は1契約1行にして、入退去のたびに行を足します。
部屋ごとに1行で上書きしていると、月の途中で空いていた日数が数えられず、稼働率も時点の数字しか出ません。
稼働率(期間)と空室率(時点)の違いや、入居履歴を1行1レコードで分けて空室期間を集計する方法は、空室対策の記事にまとめています。
顧客台帳は入居者・オーナー・買主を区分の列で分け、連絡に必要な情報に絞ります。
入居審査で受け取った勤務先や年収などの詳しい属性まで同じ表に並べると、閲覧できる人の範囲を絞れなくなります。
審査で扱う属性・収入・保証会社の審査結果の3層と、保証会社対応をエクセルで追う限界は、入居審査の記事で扱っています。
収支台帳は1物件×1か月で、賃料収入は契約・家賃台帳から物件IDで集計した数字を受け取ります。
修繕費は、修繕の履歴(1件=1行で物件ID・部屋IDと金額を持たせた記録)から、同じく物件IDで集計します。
ここが手入力だと、家賃台帳との差額を誰も確かめなくなります。
家賃収入・空室率・ローン返済・運営経費・NOIの5項目を年次で並べる試算の組み方は、収支シミュレーションの記事が参考になります。
法令が求める「帳簿」とエクセル台帳の関係
⚖ 法令の要点
宅建業法も賃貸住宅管理業法も、ファイルの帳簿を認めています。条件は法定事項がそろい、事務所で紙に出せて、閉鎖後5年(宅建の新築は10年)保存することです。
台帳を自由に作ってよいのは社内用の部分だけで、法令で備付けが決まっている帳簿もあります。
| 法令 | 対象 | 記載する主な事項 | 保存 |
|---|---|---|---|
| 宅地建物取引業法 第49条・施行規則第18条 | 宅建業者(事務所ごと) | 取引の年月日、物件の所在・面積、売買金額や賃料、報酬の額、特約など | 事業年度末で閉鎖し5年(自ら売主となる新築住宅は10年) |
| 賃貸住宅管理業法 第18条・施行規則第38条 | 登録を受けた賃貸住宅管理業者(営業所・事務所ごと) | 委託者名、契約年月日、対象の賃貸住宅、受託した業務、報酬の額、特約など | 事業年度末で閉鎖し5年 |
どちらの施行規則も、ファイルに記録して必要に応じて事務所で紙に明確に表示できるなら、帳簿への記載に代えられると定めています。
賃貸住宅管理業の登録が必要になるのは、施行規則第3条により管理戸数200戸以上の事業者です。
登録業者には、委託者への管理業務報告書を、契約締結日から1年を超えない期間ごと、及び契約期間の満了後遅滞なく交付して説明すること(法第20条・施行規則第40条)や、家賃・敷金・共益費などを自社の財産や他の管理受託契約で受け取った分と分けて管理すること(法第16条)も求められます。
契約・家賃台帳とオーナーの顧客IDがつながっていれば、委託者ごとの入金と送金の内訳はフィルター1つで出せます。
管理受託契約の書面に書く7つの軸は、管理委託契約書の記事で解説しています。
エクセルをやめるかどうかは4つのサインで判断する
✅ 判断の目安
管理戸数だけで決めると、システムに移っても転記と表記ゆれをそのまま持ち込みます。転記・同時編集・報告の手組み・照合の外れの4つで判断します。
次の4つは、エクセルの限界が近づいているサインです。
いくつ当てはまれば移行すべきという公的な基準や統計はありませんが、この記事では2つ以上重なったら台帳のつなぎ方を見直す目安としておすすめします。
- 同じ情報(氏名・部屋・賃料)を、台帳の数だけ転記している
- 複数の担当者が同じファイルを同時に直し、どれが最新か分からなくなる
- オーナー報告や管理業務報告書を、複数の台帳からのコピーと貼り付けで組み立てている
- 部屋名や振込名義の表記ゆれで、台帳どうしの照合が毎月外れている
月末の消込にかかる時間や契約更新の見落としなど、物件管理の業務から見た判断基準は、物件管理の記事で解説しています。
事務担当
「管理ソフトを入れれば、全部まとめて解決しますよね」
佐々木
ソフトは台帳のつなぎ方を自動で決めてはくれません。どの情報をどこで1回だけ入力するかを先に決めておかないと、移行の初日に表記ゆれのデータを流し込むことになります。
システムを選ぶ前に、次の3つを今のエクセルのまま進めておきます。
- IDを足す:各台帳の左端に物件ID・部屋ID・契約ID・顧客IDの列を足し、既存の行に番号を振る
- 転記を数える:入居・退去・更新の1件で、どの台帳の何か所に手で書いているかを書き出す
- 参照に置き換える:転記の多い列から順に、名前の手入力をIDでの参照(XLOOKUP等)に替える
経営者として見るべき数字は1つです。
どの物件で、今月いくら未収や空室で取り逃しているかを、月次で言えるかどうかです。
台帳がIDでつながっていれば、この一覧は集計1回で出ますが、つながっていなければ毎月だれかが3〜4つのファイルを突き合わせることになります。
自社の台帳がどこでつながっていて、どこを手で写しているのかは、中にいると気づきにくい部分です。
初月無料の経営AI診断(通常30万円相当)では、台帳と転記の流れを一緒に可視化し、どこから自動化できるかを整理するところから始められます。
まとめ:台帳のつなぎ目を決めると、物件別の取り逃しが見える
💡 ここがポイント
4つの台帳を共通IDでつなげば、転記が減るだけでなく、物件別・オーナー別の入金と取り逃しが月次で一覧になります。それが経営判断に使える台帳です。
台帳が名前でつながったままだと、入退去や更新のたびに同じ情報を台帳の数だけ写し続けることになります。
設例の規模でも月200分の転記が発生し、表記ゆれで消込や集計が外れても気づけません。
その結果、どの物件が手間に見合っていて、どこで取り逃しているのかを経営判断に使えないまま、翌月に持ち越します。
自社の台帳のどこから手を付けるべきか迷ったら、初月無料の経営AI診断(通常30万円相当)で、物件・家賃・顧客・収支の台帳の流れを可視化し、改善提案までご一緒します。
関連記事
- 不動産の物件管理をエクセルでやる限界と脱エクセルの判断基準とは — 関連: 消込・更新管理と脱エクセルの判断基準
- 不動産の空室対策・稼働率分析をエクセルでやる実務と限界の見極め方 — 関連: 入居履歴からの稼働率・空室期間
- 不動産の入居審査をエクセルで管理する実務と保証会社対応の限界 — 関連: 審査情報の3層と保証会社対応
- 不動産投資の収支シミュレーションをエクセルで作る方法と精度の上げ方 — 関連: 収支の5項目と年次の試算
- 不動産管理委託契約書のテンプレートと記載必須項目 電子化・データ化の実務ガイド — 関連: 管理受託契約の書面
- Excel関数VLOOKUP依存の危うさ 崩れる数式の見分け方と移行判断 — 関連: 照合の数式がエラーを出さずに崩れるきっかけ

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よくある質問
- Q. 不動産管理のエクセル台帳は、1つのシートにまとめた方がいいですか?
- A. まとめない方が安全です。物件・部屋、契約と家賃の入金、顧客、物件別の収支は、1行が表すもの(1部屋・1契約・1人・1物件×1か月)が違うため、1枚に混ぜると同じ部屋が何行も現れ、どの行が最新か分からなくなります。台帳は分けたまま、各台帳の左端に物件ID・部屋ID・契約ID・顧客IDの列を置き、名前ではなくIDで参照し合う形にしてください。
- Q. 宅建業法の帳簿はエクセルで作ってもいいですか?
- A. 条件を満たせば認められています。宅地建物取引業法施行規則第18条は、取引の年月日や物件の所在・面積、売買金額や賃料、報酬の額などをパソコンのファイルに記録し、必要なときに事務所で紙に明確に表示できる場合は、帳簿への記載に代えられると定めています。帳簿は事業年度末で閉鎖し、閉鎖後5年間(自ら売主となる新築住宅は10年間)の保存が必要です。
- Q. 管理戸数が200戸未満でも、賃貸住宅管理業法の帳簿は関係ありますか?
- A. 賃貸住宅管理業の登録が義務になるのは管理戸数200戸以上で、帳簿の備付けや定期報告の義務は登録を受けた賃貸住宅管理業者にかかります。200戸未満で登録していない会社には直接はかかりませんが、委託者ごとの契約内容・報酬・特約を台帳で追える状態にしておくと、戸数が増えて登録するときに作り直さずに済みます。
- Q. どのタイミングでエクセルから管理システムに移るべきですか?
- A. 管理戸数だけで決めず、同じ情報の転記が台帳の数だけ発生している、複数人が同じファイルを同時に直している、オーナー報告や法定の報告書を毎回手で組み立てている、入金の照合で表記ゆれが原因の外れが出ている、の4つで判断します。統計にもとづく線引きではありませんが、2つ以上当てはまることを1つの目安にし、システム選定の前に共通IDと転記の流れを整理しておくと、移行後も同じ問題を持ち込まずに済みます。
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