
稼働率と空室率は基準日が違うため単純比較すると数値がズレます。集計式の作り方から対策の効果測定、脱エクセルの判断基準まで実務目線で解説します。
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目次
不動産の空室対策・稼働率分析をエクセルでやる実務と限界の見極め方
稼働率と空室率は「期間」と「時点」で基準が違う
稼働率と空室率は同じ数字のように扱われがちですが、計算の基準が違うため単純比較すると矛盾した数値になります。まずここを揃えないと、その先の分析がすべてズレます。
エクセルでの空室対策サイクル全体像
稼働率は「対象期間のうち、どれだけ稼働していたか」を測る期間指標です。エクセルでは各部屋の契約期間から稼働日数を出し、SUMPRODUCT関数で合計してから、対象期間日数×総戸数で割ると求められます。
稼働率(%) = SUMPRODUCT(MIN(契約終了日,期間末)-MAX(契約開始日,期間初)+1の合計) ÷ (期間日数×総戸数) × 100
一方で空室率は、多くの管理会社で「月末時点の空室戸数÷総戸数」という時点指標として運用されています。COUNTIF関数で月末時点の空室部屋数を数えるだけなので作り方自体は簡単です。
この2つを混同すると、「稼働率は90%なのに空室率が15%もある」という一見矛盾した報告が出てきます。実際には矛盾ではなく、稼働率は期間中の平均的な稼働状況、空室率は月末というピンポイントの状況を見ているだけです。自社が受けた相談でも、この違いをオーナーに説明できず、報告のたびに「数字が合わない」と指摘されて困っている担当者の方によく出会います。
| 指標 | 基準 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 稼働率 | 期間(延べ稼働日数) | 収益性の月次・年次報告 |
| 空室率 | 時点(月末等のスナップショット) | 現場の空室状況把握 |
稼働率と空室率の計算式比較
空室期間の物件別集計は「入居履歴シート」を分離しないと壊れる
空室期間を物件別に正しく集計するコツは、部屋の「現況」と「履歴」を同じシートに混在させないことです。
現況シートを更新のたびに上書きしていると、過去の空室期間そのものが消えてしまいます。実装はシンプルで、部屋番号・入居者・入居日・退去日を1行1レコードで持つ履歴テーブルを1枚作るだけです。空室期間は「次の入居日−前の退去日」をDATEDIF関数で計算し、物件別の平均空室日数はAVERAGEIFS関数で物件名を条件に集計します。
空室日数 = DATEDIF(前回退去日, 次回入居日, "d")
物件別平均空室日数 = AVERAGEIFS(空室日数の列, 物件名の列, 対象物件名)
この設計にしておくと、物件を追加してもテーブルの行を増やすだけで済み、ピボットテーブルで「物件別の平均空室日数ランキング」もすぐに作れます。
実際に受けた案件では、退去が発生するたびに「現況シート」の同じ行を上書きする運用をしていた不動産管理会社がありました。半年後に「昨年同時期と比べて空室期間が延びているか」を確認しようとした際、過去の入退去記録がすでに上書きで消えており、比較する元データ自体が存在しないという状態になっていました。履歴を残す設計にしていれば数分で終わる分析が、その時点ではもう不可能でした。
入居履歴シートの整理作業
退去理由は自由記述のままだと集計できない
退去理由の分析でつまずく最大の原因は、理由欄を自由記述のテキストにしていることです。
テキストのままだと「賃料起因の退去が何件あったか」を数えるだけで、担当者が過去の記述を1件ずつ目で読み返す作業が発生します。対策は単純で、データ入力規則のプルダウンで退去理由カテゴリ(賃料・設備・近隣・転勤・その他)をあらかじめ固定することです。カテゴリさえ固定すれば、ピボットテーブルで物件別×理由別のクロス集計を数秒で作れます。
自社で受けた案件では、3年分の退去理由が自由記述のまま蓄積されており、「賃料が理由の退去が増えているか」を確認するために、担当者が過去のテキストをすべて読み返してカテゴリ分けし直す作業に丸2日かかったケースがありました。カテゴリを最初から固定していれば、この作業自体が発生しません。
ただしカテゴリ化にも限界があります。担当者によって「なんとなく」「他に良い物件があった」といった曖昧な記述が残りやすく、粒度がバラつくとカテゴリ化してもノイズが残ります。カテゴリの選択肢自体を定期的に見直し、曖昧な選択肢を減らす運用ルールとセットで機能させる必要があります。
退去理由カテゴリ別クロス集計のイメージ
対策の効果測定は「対策前後」を並べる設計がないと検証できない
賃料見直しやリフォームといった空室対策を打っても、実施前後を並べて比較する設計がなければ、後から「効果があったのか」を検証できません。
実装としては、物件・部屋・対策種別・実施日・対策前賃料・対策後賃料を持つ「対策履歴シート」を1枚作り、対策実施日をキーにして稼働率の推移や成約までの日数とひも付けます。ポイントは、成約日と募集開始日の差分を先に「成約日数」という補助列で計算しておくことです。差分をその場で計算しようとするとAVERAGEIFSの条件式に組み込めず、後から集計が崩れます。
成約日数の列(補助列) = 成約日 − 募集開始日
対策後の平均成約日数 = AVERAGEIFS(成約日数の列, 対策実施フラグの列, TRUE)
自社が受けた相談でよくあるのは、「賃料を下げたら決まりが早くなった気がする」という感覚止まりで終わっているケースです。実際に何日短縮されたのか、季節性(繁忙期・閑散期)や立地要因と切り分けられていないため、次に同じ判断をする根拠として使えません。効果測定を機能させる最低条件は、対策を打つ前に「いつ・何を変えたか」を記録する習慣そのものです。この記録がないと、エクセルでどれだけ集計を頑張っても、後から効果を再現できません。
リフォーム後の空室対策イメージ
エクセル分析の限界は「勘」「横断比較」「タイムラグ」の3つ
ここまでの実装を積み上げても、エクセルでの稼働率・空室率分析には構造的な限界が3つあります。
1つ目は原因分析の属人化です。退去理由をカテゴリ化して集計しても、「なぜその理由が増えているか」を解釈するのは担当者の経験則です。データは揃っていても、そこから洞察を出す部分がボトルネックのまま残ります。
2つ目は複数物件を横断した比較の手作業化です。目安として管理物件が10棟を超えると、物件ごとにシートが分かれている運用が多く、「全物件の稼働率ランキング」を出すだけで複数シートを開いてコピペする作業が発生します(自社ヒアリングベースの傾向・要検証)。
3つ目は対策の効果測定にかかるタイムラグです。月次でしか集計しない運用では、対策の効果が見えるのは早くて1〜2ヶ月後になります。その間に別の対策を重ねてしまうと、結局どの施策が効いたのか切り分けられなくなります。
脱エクセルを検討する目安は、次の3つのいずれかに該当するかどうかです。
- 管理棟数が目安10棟を超え、横断比較のために複数シートを毎回開いている
- 退去理由の分析が担当者の勘に依存し、後任が同じ精度で判断できない
- 対策の効果が分かるまで1ヶ月以上かかり、次の対策判断が遅れている
自社の空室対策・稼働率分析がどの段階にあるのか、どこにボトルネックがあるのかを整理したい場合は、初月無料の経営AI診断(通常30万円相当)で現状の集計フローを可視化し、システム化すべき範囲とエクセルのままで良い範囲を切り分けるところから始めることもできます。
脱エクセルの判断基準3条件
まとめ
稼働率と空室率は基準が違う指標であることを前提に、入居履歴と退去理由をカテゴリ化した状態で1枚のシートに蓄積し、対策履歴と突き合わせて効果測定する設計にすれば、エクセルでも一定水準の分析は可能です。限界が出るのは、原因分析の解釈が担当者の勘に依存し、物件数が増えて横断比較が手作業になり、対策の効果検証にタイムラグが生じ始めたときです。自社の運用がどの段階にあるか整理したい場合は、初月無料の経営AI診断で現状のボトルネックを可視化するところから検討してみてください。
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よくある質問
- Q. 稼働率と空室率、どちらを重視すればいいですか?
- A. 用途で使い分けます。稼働率は一定期間の収益性を測る指標としてオーナーへの月次・年次報告に向いており、空室率は「今この瞬間、何室空いているか」を把握する現場管理向けの指標です。同じ物件でも稼働率は高いのに時点の空室率も高い、という一見矛盾した状態は普通に起こるため、片方だけで良し悪しを判断しないことをおすすめします。
- Q. 空室期間の平均を出す際に気をつけることは?
- A. 「まだ空室中」の部屋を計算から除外すると、平均日数が実態より短く出ます。次の入居日が確定していない部屋は、集計基準日までの経過日数を仮の空室期間として含めるか、別枠で管理するかをあらかじめルール化しておかないと、月によって平均値の意味が変わってしまいます。
- Q. 退去理由の分析にAIを使うメリットは何ですか?
- A. 自由記述のテキストや過去の対応履歴から理由をカテゴリ分類し、物件を横断して傾向を集計できる点です。担当者の勘に頼らず「賃料起因の退去が増えている物件」を機械的に抽出できるため、リフォームや賃料見直しの優先順位づけが速くなります。
- Q. 管理物件が何棟からエクセル管理が厳しくなりますか?
- A. 目安として管理棟数が10棟、部屋数で100室を超えたあたりから、複数シートを横断した比較集計の手作業時間が急増する傾向があります(自社ヒアリングベースの目安・要検証)。棟数だけでなく対策の実施頻度が増えるほど、効果測定の突き合わせ作業も比例して重くなります。
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